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札幌高等裁判所 昭和54年(ネ)193号 判決

以下は、判例タイムズに掲載された記事をそのまま収録しています。オリジナルの判決文ではありません。

【判旨】

一甲、乙、丙地は、もと山口美夫の所有であつたところ、控訴人及び引受参加人(以下「控訴人ら」という。)主張の経緯により、被控訴人が甲地を、控訴人が乙地を、引受参加人が丙地をそれぞれ所有するに至つたことは当事者間に争いがない。

二そこで先ず、控訴人ら主張の本件土地を目的とする通行地役権又は通行のための使用借権の成否について判断する。

1 控訴人又は脱退控訴人が、松下電工又は被控訴人との間で、本件土地につき控訴人ら主張の各通行地役権設定契約又は通行のための各使用貸借契約を明示に締結したことを認めるに足る証拠はない。

2 ところで、<証拠>によると、

(1) 控訴人及び脱退控訴人は、昭和三二年六月ころから甲地の一部である本件土地を、その北側の一番一四の土地(当時斉藤和夫所有)のうち本件土地に接した南北の幅が一メートル前後の長方形の土地とともに、その西側の一番二〇の土地(当時札幌市所有)やさらにその北側の私有地を経て公道に出るために通行していたところ、甲地を所有していた松下電工及び同社からこれを買受けた被控訴人は、少なくとも昭和四五年五月ころまでは、右のような本件土地の通行につき、格別異議を述べることなくこれを黙認していたこと、

(2) しかるに右の一番二〇の土地の北側私有地の所有者が、昭和四〇年一一月ころ隣接地所有者との境界をめぐる紛争のため、その私有地の周囲に柵を設置するなどして通行を制限したことから、公道に出るためそこを通行していた控訴人、脱退控訴人及び被控訴人を含む付近の土地所有者は、札幌市からその所有の一番二〇の土地を買受け、これを用地として(その一部は、近辺の私有地と交換し、その交換した土地をも用地として)公道に至る通路を新設する目的で、昭和四一年五月ころ大越市之進を会長とする期成会を結成してその会員となり(脱退控訴人については、夫の今井登が会員として名を連ねたが、これは脱退控訴人を代理したにすぎないと認められる。)、大越市之進が、期成会の会長(会員からその名において期成会の業務を遂行することを委された受託者。以下この地位にある同人を「期成会会長大越」という。)として、昭和四三年五月一日札幌市から右土地を代金四八万七六〇〇円で買受けた際、その代金を分担して出捐した(被控訴人を含む右の新設通路に隣接する土地の所有者は金五万円ずつを、控訴人及び脱退控訴人を含むその余の土地の所有者は金一万五〇〇〇円ずつをそれぞれ出捐した。)ところ、控訴人及び脱退控訴人が、右のごとく期成会に加入して右代金の一部を出捐したのは、引続き本件土地を通行することによつて右の新設通路を利用し得ると考えてのことであり、被控訴人もその意図を推察していたものとみられるが、これにつき被控訴人は、特に異を唱えることはしなかつたこと、

(3) また期成会会長大越は、昭和四四年一二月二〇日被控訴人に対し、札幌市から買受けた一番二〇の土地のうち、新設通路の用地に供する必要のない甲地の西側に隣接する約五六平方メートル(約一七坪)の土地を、また被控訴人は、同日控訴人に対し、甲地のうち、その東側に鉤形に伸びた乙地と隣接する幅0.909メートル(三尺)の帯状の土地をそれぞれ売渡したこと、

がそれぞれ認められる(控訴人らは、以上の点につき、一部その認定したところと異なる主張をしており、被控訴人も、その主張の一部を認めるが、これらはいずれもいわゆる主要事実に該らないから、その自白には拘束されない。)が、前示(1)についてみれば、松下電工や被控訴人が単に控訴人や脱退控訴人による本件土地の通行を事実上黙認していたことをもつて、法的に通行受忍義務(あるいは通行のため目的物を使用させる義務)を負担することとなる通行地役権の設定契約や通行のための使用貸借契約が黙示に締結されたと認めることは困難であり、前示(2)についてみれば、期成会を結成して通路を新設することと、本件土地の通行に関する権原の成否とは別個の法律関係であることを考えると、被控訴人が、控訴人及び脱退控訴人による期成会の加入や通路を新設するための土地買受代金の一部出捐を知りながら(あるいはその意図するところを知りながら)これに異を唱えなかつたことをもつて、本件土地の通行に関する右の各契約が黙示に締結されたと認めることは困難であり、前示(3)についてみれば、期成会会長大越と被控訴人の間及び被控訴人と控訴人の間の前記各土地の売買契約は、いずれも本件土地の通行には直接関係しない取引であるから、その取引がなされたことをもつて、本件土地の通行に関する右の各契約が黙示に締結されたと認めることも困難である。

3 また控訴人らは、以上のほかに、控訴人及び脱退控訴人が、昭和三八年九月ころ被控訴人から、渡部寛の所有地に通路を開設して貰う約定をしたので、その履行確保のため、控訴人及び脱退控訴人が本件土地を通行してその通路を利用する便益を受けることを理由に、渡部寛の上水道施設費負担金を一部負担するよう求められてこれを承諾したから、これによつて本件土地につき通行地役権設定契約又は通行のための使用貸借契約が黙示に締結されたという旨を主張するが、その主張自体の当否はともかくとして、右のうち、控訴人及び脱退控訴人が右負担金の一部(負担金一万二〇〇〇円のうち、金三〇〇〇円ずつ)を負担したことは、当審における控訴人本人尋問の結果とこれにより成立の真正を認める甲第一九号証により認めることができるけれども、その負担が右主張の趣旨のもとになされたかについては、右本人尋問の結果中にその主張に副う供述部分がある(当審証人今井幸子の証言中にも、関連する供述部分があるが、その内容は右主張に副うものとはいえない。)けれども、前示2の冒頭部分掲記の各証拠及び弁論の全趣旨によると、期成会会長大越が、前記のとおり札幌市から一番二〇の土地を買受けたのち、渡部寛及び浜野トシとの間で右土地と同人らの所有地の各一部を交換し、その交換した土地を前記新設通路の用地に供するまでは、渡部寛の所有地に通路が開設されたことはなく、また控訴人及び脱退控訴人も、それまでにその開設を要求したこともなかつたものと認められ、この事実に照らして前記供述部分はにわかに措信し難く、他に前記主張事実を認めるに足る証拠はない。

4 また以上のほかに、控訴人、脱退控訴人と松下電工又は被控訴人との間に、本件土地の通行に関する前記各契約が黙示に締結されたことを肯定し得るような事情を認めるに足る証拠はない。

三次いで控訴人ら主張の本件土地を目的とする囲繞地通行権の成否について判断する。

1 <証拠>によると、甲、乙、丙地は、いずれももと山口美夫所有の札幌市南二〇条西五丁目一番地の一宅地一六〇坪の一部であつて、この土地はその東側で河川敷地と隣接していたが、同人は、昭和二八年一一月二五日右土地につき、乙地を据置地とし、甲地、丙地及び一番一四の土地を分筆地とする分筆手続をなし、これにより乙地については間口約6.8メートルにわたつて、また甲地、丙地及び一番一四の土地については、各土地の東側に鉤形に伸びた順次隣接する帯状の部分の土地(以下これらの帯状の土地を「甲地(あるいは丙地又は一番一四の土地)附属の帯状地」という。)が間口各0.909メートル(三尺)にわたつてそれぞれ河川敷地と隣接するようになつたところ、同人は、先ず一番一四の土地を斉藤和夫に、次いで丙地を脱退控訴人に、次いで甲地を石坂久雄に、次いで乙地を控訴人に順次売渡し、さらにその後一番一四の土地は斉藤和夫から島田廸彦に、丙地は脱退控訴人から引受参加人に、甲地は石坂久雄から松下電工を経て被控訴人にそれぞれ売渡された(右のうち甲、乙、丙地の各売買については当事者間に争いがない。)ことがそれぞれ認められ、これらの分筆及び売買の経緯に照らすと、山口美夫は、甲地、丙地及び一番一四の土地附属の各帯状地を、各土地所有者がその東側に隣接する河川敷地に至るための共同の通路に供する目的で右のような分筆をなしたものであり、またその各土地の買受人(買受人からさらに買受けた転買人を含む。)も、土地の形状等から、そのことを十分承知してこれを買受けたものと推認することができる。

なお被控訴人は、前項2の(3)設定のとおり、昭和四四年一二月二〇日控訴人に甲地附属の帯状地を売渡し、また<証拠>によると、丙地の所有者であつた脱退控訴人と一番一四の土地の所有者であつた斉藤和夫は、昭和四一年一一月一三日各土地附属の帯状地の一部を交換し、かつ斉藤和夫は、同日その交換により得た土地と残りの一番一四の土地附属の帯状地の一部とを、隣接の札幌市中央区南二〇条西五丁目一番地九宅地315.23平方メートルの所有者である藤井コトに売渡したことがそれぞれ認められる(但し、右の各帯状地の売買や交換につき、分筆や移転登記の手続がなされたことを窺わせる証拠はない。)ところ、右の各証拠及び右前段部分認定の諸事情に照らすと、右の各帯状地の買受人は、いずれもその帯状地が前記のとおり共同の通路に供された土地であることを十分承知しながらこれを買受けたものと推認することができる。

2 ところで、<証拠>によると、甲、乙、丙地等の東側に隣接(甲地や丙地は、附属の各帯状地が隣接)する前記河川敷地の場所は、昭和四七年ころまでは豊平川の堤防となつていて、ここから公道に出るにはその堤防上の通路を経ることを要したが、これは冬期に積雪等のため通行が困難になるなど、通路としては完全なものではなかつたこと(そのため、前項2の(1)認定のとおり、控訴人や脱退控訴人は、本件土地を通り、他の私有地等を抜けて公道に出ることが多かつた。)、しかし昭和四五年ころから昭和四七年ころにかけて、札幌市は前記河川敷地に隣接する私有地を買受け(乙地の一部並びに甲地、丙地及び一番一四の土地附属の各帯状地の一部も、その際に同市に売渡された。)、かつ右堤防については擁壁を築き、その買受地と河川敷地とを用地として、人車の通行し得る幅員三メートル余の舗装された道路(以下「堤防下道路」という。)を設置したことがそれぞれ認められる。

3 右によれば、控訴人所有の乙地は、公路である堤防下道路に面しているのであるから、これが袋地に該当しないことは明らかである。

また引受参加人所有の丙地については、前示1認定の分筆及び売渡等に関する経緯に照らせば、甲地、丙地及び一番一四の土地がそれぞれはじめに売渡された際に、各買受人の間に、それぞれの買受地を要役地とし、その各買受地附属の帯状地を承役地とする相互的かつ交錯的な通行地役権設定契約が黙示に締結されたものとみることができ、しかもその後その買受人から甲地、丙地及び一番一四の土地あるいはこれに附属する各帯状地を買受けた転買人も、買受当時その各帯状地が共同の通路に供された土地であることを十分承知していたのであるから、右の通行地役権につき登記の欠缺を主張し得ない立場にある(すなわち、地役権者は、その登記なくして地役権を右の各転買人に対抗できる。)ものというべく、そうすると脱退控訴人から丙地を買受けた引受参加人は、甲地、丙地及び一番一四の土地附属の各帯状地のうち、その所有に属する部分の土地は所有権にもとづき、その余の部分の土地は右の通行地役権にもとづいて、公路である堤防下道路に至るため通行することができるのであるから、丙地は公路に通ぜざる袋地には該当しないというべきである。なお前示1の前、後段部分の認定に供した各証拠によると、昭和四五年ころ甲、乙、丙地及び一番一四の土地等につき測量がなされ、これにもとづく図面によると、右の各帯状地のうち、丙地及び一番一四の土地附属の分は、その鉤形に折れる箇所で括れた形状となつている(甲第一一号証、第一五号証、第一八号証、乙第六号証各参照)(右の各土地の分筆手続における図面(乙第二二号参照)では、右と異なり、各帯状地の幅はいずれの箇所でも前記間口と同一になつている。)ことが認められるので、仮にその測量図面に示された境界に誤りがないとするなら、右の各帯状地は右の括れた箇所において通路としては狭隘であつて、丙地が実質的には公路に通ぜざる袋地に該当するかのようであるけれども、かりにそうであつたとしても、前示1、2の各認定事実に照らして考えると、丙地から公路に至る通路としては、右の各帯状地のみでは不足する分だけこれをその隣接地(ことに前示1の分筆及び売買の経緯からすれば乙地)に求めることが囲繞地のため損害の最も少ない方法と判断され、前項2の認定事実その他本件に表われた諸事情を斟酌しても、本件土地を囲繞地通行権の対象とすることは相当でないというべきである。

(奈良次郎 藤井一男 柳田幸三)

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